ディスディスブログ

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高橋ツトムさんはアシスタントをおきません。「薄墨のスクリーントーン」は浦沢直樹さんも驚く革新的な手法のようです - Eテレ『浦沢直樹の漫勉』シーズン3

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木曜日22:00から放送されているEテレのドキュメンタリー番組『浦沢直樹の漫勉』、2016年9月からシーズン3が始まりました。漫勉はシーズン0があるため、今シーズンが実質シーズン4です。2016年9月29日の放送では「高橋ツトム(たかはし・つとむ)」さんが登場しました。

 

 

漫勉とは?

www.nhk.or.jp

 

日本を代表する漫画家の制作現場にNHKのカメラが入り、漫画家さんたちの作業の様子を邪魔にならないように定点カメラで撮影し、記録した映像をご本人と漫画家の「浦沢直樹(うらさわ・なおき)」さんと2人で観ながら、どのような手法で漫画を描いているのか、どのような道具を用いているのか、どのようなことを考えながら描いているのか……などを話す番組です。浦沢直樹さんは「YAWARA」「20世紀少年」「MONSTER」などを描いた漫画家さんです。

 

 

『漫勉』シーズン3第3回は「高橋ツトム」さん

サードシーズン3回目は、ハードボイルドかつスタイリッシュな作風で人気の「高橋ツトム」が登場!今回は、人間の心の闇と行き方を問う、青春逃走物語「残響」の執筆現場に密着。すべての作業を一人で行う高橋の自由な手法と、衝動をかきたてられるような絵の熱量の正体に迫る。

 

 

ということで、『漫勉』シーズン3第3回の放送に登場した漫画家さんは「高橋ツトム(たかはし・つとむ)」さんです。

毎度書いていますけど、私は漫画家さんをあまり知らないですし普段もほぼ読んでいませんので、高橋ツトムさんの作品は読んだことがありません。ただ「スカイハイ」は釈由美子さんが演じていたドラマが話題になっていたので作品名だけは知っていました。残念ながらドラマも観ていないのですが……。

 

髙橋 ツトム(たかはし ツトム、男性、1965年9月20日 - )は、日本の漫画家。東京都出身。既婚。
1989年『モーニング』でデビュー。『月刊アフタヌーン』、『週刊ヤングジャンプ』などで活躍。代表作に『地雷震』『スカイハイ』『爆音列島』『SIDOOH/士道』など。

 

高橋ツトム - Wikipedia

 

高橋さんのWikipediaにはこのようにあります。Wikipedia内にもあるように、高橋さんはかなりやんちゃをしていた方のようで、一時期暴走族に入っていたそうです。番組内でも写真が載っていましたね。金髪でパーマをかけてリーゼント的な……。高橋さんはロック・バンドも組んでいたいようです。バンドが行き詰まったときに漫画を描いてみて投稿、『漫勉』にも登場していた「かわぐちかいじ」さんのアシスタントとなり、デビューを果たすことになります。

番組が取材をしたとき、高橋さんは「残響」の制作中でした。残響はひょんなことから銃と金を手に入れた主人公が、仲間を殺した敵に復讐するために自ら女装し、立ち向かう、もがきながら運命と戦うロードムービー的作品だそうです。

 

 

高橋ツトムさんの革新的な技

上記の浦沢さんの事務所のTwitterに「漫画の描きかたが劇的に変わるかも!」と書いていますけど、これは大袈裟ではなく本当にそうかもしれないと思います。高橋ツトムさんのロックな生き方は、漫画そのものだけではなく、漫画の制作にもはっきりと表れていました。

私は漫画どころか絵すら何年も描いていないですけど、高橋さんの制作現場の映像を観ていたら「絵を描きたい」と思ったくらいですから。

 

漫画を描くのはコピー用紙

まず、高橋さんは、漫画を描く用紙がケント紙や上質紙ではなく「コピー用紙」だということ。コピー用紙の上質だそう。コピー用紙は「引っかかるんですよ。ツルンといかない」そうです。浦沢さんは一番描きやすい紙に描けばいいんですよ、として、さらに「ケント紙とか上質紙とか、実は描きづらい紙じゃないですか」と言っています。ツルンとしていると。

コピー用紙に絵を描くこと自体は私も知っていました。というのもイラストを描いている方々の制作風景を動画サイトで拝見したところ、コピー用紙を使っている方を何人か見かけたので。ああ、そういう手もあったか、と感心した思い出があります。さすがに安いコピー用紙だと、カラー原稿を描く場合は特に色のノリなどにも影響しそうな気がしますけれども。

また、ツルンとしている紙に描くことに慣れてしまった方にとっては、引っかかるコピー用紙はイラストには向いていないと考えられますから、何が正しい意見かの問題ではなく、慣れの問題だったり好みの問題だったりするのだろうと思われます。

 

ペンはボールペンと筆ペン

次にペンですが、氏はGペンや丸ペンやカブラペンといった、いわゆる「つけペン」は使わず、「ボールペン」と「筆ペン」を使っています。筆ペンは、かすれなどを表現するために古い物も使って、3種類ほどを使い分けているようです。

高橋さんはずっとGペンを使っていたそうです。でもGペンは強弱は出るけど「かすれない」から止めたみたいです。偶発性を好んでいるようで、意図せずかすれが生じることが好きだそう。まぐれが欲しいと。浦沢さんも、全部が綺麗に出ちゃうと違うんですよね、と言っていました。一番綺麗な線となったら、鉛筆の絵になっちゃう。

下描きの鉛筆はシャーペンでしたが、番組で言及されていなかったですけど、おそらく製図用のシャーペンではなく普通のシャーペンを使用していたように見えました。芯は細いかもしれないですね。浦沢さんは製図用を使っているように見えます。

 

薄墨がスクリーントーン

高橋さんの技で一番驚いたのは「トーン」です。用紙に白黒の色をつける段階になってからが面白かったです。ペン入れをした原稿をクリアファイルに入れて、その上からまた1枚紙を乗せて、それらをトレース台に乗せて透けさせ、一番上に載せた紙に薄墨を付けた筆で塗りを加えていきます。

薄墨は一番上の1枚にしか塗られていませんから、薄墨を塗り終えればペン入れした紙には薄墨は描かれていません。今後は、その薄墨の紙と元々のペン入れをした原稿の2枚ともスキャンしてPCに取り込みデータ化し、画像ソフト(Photoshopでしょうか)で2枚の画像をレイヤーで重ねて合成する、ということをしていました。それを印刷して原稿にすると。つまり「薄墨をスクリーントーンとして使う」ということです。

この手法に浦沢さんは大いに食いついていて、「まともに原稿に薄墨を塗っていると、ああはならない。実線までトーン(ドット)になってしまう」「薄墨をスキャンしてレイヤーで重ねるという発想は、割とシンプルなようで、案外皆気がついていない」「全国の漫画を描いている人たちが、すっごいこれ試そうと思いますよ」「皆やるようになると思う。日本の漫画界、絵、変わるかもしれませんよ」と仰っていました。

高橋さんは「一人で描きたいんだったら、こういうことをした方が速い」「速いんですよ、墨入れるのなんて。10枚ぐらいだったら30分ぐらい」と言っています。

いやぁ確かにこれは革新的ですね。漫画家さんだけではなくイラストレーターさんでも参考になった方は少なからずいそうですよね。いや、私は漫画もイラストもしらないですから、業界では既知の技なのかもしれないですけど。

背景も、写真を画像ソフトで、線を抽出したものと墨を塗ったものとを作り、それをペン入れした人物と合成した上で、紙にして細かい部分の描き込みをしていました。この辺りの手法は、『漫勉』のシーズン1に登場していた「浅野いにお」さんの方法に似ていますね。

 

ホワイトの偶然性

ホワイトは修正ペンを使っていたでしょうか。ところが、高橋さんは修正ペンを修正には使っていなかったようです。ラフにホワイトを入れて、全体の雰囲気出しのようなものに用いていました。「角度によってカカカカカカンって飛ぶんです。あれがべトーーっていくんだとやりたくないんですけど」と高橋さん。こちらもペンと同じく偶然性を求めているようでした。

浦沢さんは「藤田和日郎以来の良いホワイトですね」と言っていました。浦沢さんはホワイトのこととなると藤田さんの名前を持ち出しますから、相当に印象に残っているのでしょう。確かに藤田さんのホワイトは印象的でした。まずはペンで紙を黒くした後にホワイトで形を掘り出す、みたいな手法だったかと思います。インクが盛られて盛られて……5mmくらい厚みができているのではないかと思ってしまうくらい。

 

 

おわりに

高橋さんは影響を受けた漫画に、王欣太(きんぐ・ごんた)さんの「HEAVEN」と、寺沢大介さんの「将太の寿司」を挙げていました。王欣太さんへは「これは『ロック』だなと、「ロックな成分」をこうやって漫画に落とし込めるんだなとわかったんですよ」と言っていて、寺沢さんへは「マグロを握るだけで1巻分ぐらい戦っている訳ですよ。これは尋常な人間がやることではないなって。ああ『もうこれで良いだな』って、『じゃあもう好き勝手やってやろう』と思って」と言っていました。

高橋さんの漫画の描き方、道具、ペンを投げつける様子や、着ている服装、言葉遣いなどなど……やはりそっち系の香りがプンプンする方でした。私とは対照的ともいえる人間でしたけど、だからといって嫌な感情はなく、心地よい潔さを感じられ格好良かったです。

高橋さんはアシスタントを一人も置かずに、一人で漫画制作の全ての作業を行っていることから、上記のような様々な工夫が生まれたようです。それにしても、生きる力の強い方だと思いますし、着眼点の良さと頭の回転が早く、また柔軟な方だとも思いました。

個人的には今回かなり衝撃を受けました。東村アキコさん以来の衝撃だったかもしれません。『漫勉』は再放送があると思いますので、見逃した方やもう一度観たい方はぜひ再放送をお見逃しなく。

次回はシーズン3の最終回と思います。浦沢さんご本人が登場していました……完全な最終回でしょうか? だとすると残念です。

 

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