ディスディスブログ

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三宅乱丈さんは豪胆! ペン入れのスピードも速く、カッターでホワイトを掘り起こし、原稿を重ねます - Eテレ『浦沢直樹の漫勉』シーズン3

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木曜日22:00からEテレで放送されているドキュメンタリー番組『浦沢直樹の漫勉』、2016年9月からシーズン3が始まりました。漫勉はシーズン0があるため、今シーズンが実質シーズン4になります。2016年9月22日に放送されたシーズン3第2回に出演した漫画家は「三宅乱丈()」さんです。

 

 

漫勉とは?

www.nhk.or.jp

 

日本を代表する漫画家さんたちの制作現場にNHKのカメラが入り、漫画家さんたちの作業の様子を邪魔にならない定点カメラで撮影した映像を、ご本人と漫画家の「浦沢直樹(うらさわ・なおき)」さんとで観ながら、どのような手法で漫画を描いているのか、どのような道具を用いて描いているのか、どのようなことを考えながら描いているのか……などを話す番組です。浦沢直樹さんは「YAWARA」「20世紀少年」「MONSTER」などを描いた方です。

 

 

『漫勉』シーズン3第2回は「三宅乱丈」さん

サードシーズン2回目は、想像力あふれる個性的な作風で注目の「三宅乱丈」が登場! 今回は、メディア芸術祭優秀賞を受賞したSFファンタジー「イムリ」の現場に密着。丁寧な下書きから生み出される驚きのペン入れや、絵に感情を宿すために何度も繰り返される鬼気迫る執筆に迫る。

 

 

ということで、『漫勉』シーズン3第2回の放送に出演していた漫画家は「三宅乱丈(みやけ・らんじょう)」さんです。名前だけではわかりづらいですが、三宅さんは男性ではなく女性です。

相変わらずですけど、私は漫画家さんをあまり知りませんので、三宅乱丈さんのことは作品はおろかお名前も知りませんでした。完全なる初めましてです。

 

三宅 乱丈(みやけ らんじょう、1966年4月24日[1])は、日本の女性[1]漫画家。北海道札幌市出身[1]、在住[2]。血液型はO型[1]。2009年に文化庁メディア芸術祭マンガ部門優秀賞を受賞。ペンネームはミケランジェロに由来する[3]。

 

三宅乱丈 - Wikipedia

 

三宅さんのWikipediaにはこのようにあります。ミケランジェロから取ったというのは『漫勉』でも言っていたかと思います。江戸川乱歩のようなノリです。エドガー・アラン・ポーに由来していますよね、乱歩は。乱丈さんの「乱」は乱歩から来ている可能性もありそうななさそうな……。

Wikipediaの作品リストを拝見してもやはり一作品も知りません……。

三宅さんは現在も北海道に住んでいらっしゃるということで、今回の放送は浦沢さんが北海道札幌市に乗り込んでの収録となったようです。初の地方ロケ。いつも浦沢さんは作業現場かゲスト縁のお店などに出向いて収録していますから、今回もそれになぞっています。

三宅さんはペットにミニブタの「ブーノ」君を飼っていました。ブーノ君は黒い毛色のミニブタで推定7歳だそう。ミニブタとは思えないほど巨大で普通のブタでしたね……体重80kgもあるそうですから、62kgほどの私より15kg以上も重いです。勝てなそう。

 

 

三宅乱丈さんは「ペン先スピード女王」

今回は「イムリ」という作品を描いている三宅さんの作業現場に4日間カメラを設置して、三宅さん作業の様子を録画していました。

「イムリ」は、2つの星が舞台の、民族間の戦乱を描いたSFファンタジー大作で、支配民族カーマと先住民族イムリ、奴隷民族イコルという3つの民族の、独特な文化と能力が描かれているそうです。民族間に大きな戦乱が勃発し、その中で主人公デュルクが成長しながら自らの運命と戦う、壮大なスペクタクル作品、です。

 

三宅回で最も印象的だったことは、三宅さんはペン入れのスピードがえらい早かったことです。浦沢さんも驚嘆していいて、シーズン1でしたっけ、そこで出演していた「東村アキコ」さんと並ぶくらいな「ペン先スピード女王」ではないかと表現していました。

 

浦沢「速い、速い、速い」
三宅「このときの感情にもう戻れないから、忘れないように描いているのかもしれない」
浦沢「『感情を捕まえる』という感じですね。やっぱりこのスピードで魂を入れるっていう感じですね」

 

という会話がありました。ただ、その一方で下描きのときは、鉛筆で細かいタッチで丁寧に時間をかけて描いていて、下描きとペン入れとのスピードの違いが大きく、ギャップでペン入れがより速く見えていた部分もあったかなと思いました。

 

三宅「描きながら(線を)決めてからなんですよね。頭の中にあるの(イメージの線)を決まっているんじゃなくて、描きながら『これでいいや』って思って描いているんだなって」

 

と、ご本人は下描き時の思考を説明していました。東村さんとの違いは下描きにありそうです。東村さんは下描きのときからかなり速かった記憶があります。ほとんど悩まずに描いていたような。イタコのように頭の中のイメージを落とす、みたいなことを仰っていたと思います。

これは他の作家さんでもたまに見られますけど、私も子供の頃に漫画や写真の模写などをして絵を描くときは、線を幾つも描いて模索するようにしているので、プロの漫画家さんでもそうなのかと、三宅さんに妙なシンパシーを感じました。即座に線が決まっているものという私のイメージがあったので。いや、私なんかと比べては失礼ですね。

東村さんは下描きはしっかり描いていなかったですね。アタリを入れているだけだったような……ネームから下描きを飛ばしていきなりペン入れをするみたいな。それは、東村さんが美大を出たからかもしれませんね。美大受験のときにデッサンを描かされまくったみたいな話があったと思いますから、彼女の見たもの・イメージしたものを形にする力はそこで鍛えられたのでしょう。

また、ペン入れにしても、スピードは確かに三宅さんも速かったですけど、東村さんの方が線が流れるように、1タッチ1タッチにより迷いがなかった記憶があります。東村さんの方が太く長いタッチで、三宅さんの方がもう少し細かいタッチをつなげていくイメージです。道具の違いなどの要素も関係するかもしれません。

東村回の録画データが既に手元にないため確認できないので、拙い記憶を頼りにして書いていますので、あまり参考にはしないで頂きたいですけど。

しかし、いずれにしても三宅さんのペン入れはめっちゃ速かったです。特に輪郭線・主線は潔い。浦沢さんは「豪胆」と三宅さんの筆さばきを表現していました。肝が座ったという意味ですね。

 

浦沢「下描きの線をなぞるまいとしている感じがする。下描きの線をなぞっちゃうと、どうしてもそういうなぞった線になると絵が死んじゃうじゃないですか?」

三宅「はい。何か気持ち悪い絵になるんですよね。命令された描いたみたいな絵じゃないけど……」

 

と。これも凄くよくわかります。なぞるとペンの勢いが殺されてしまって生きた線にならないですよね……経験が何度もあります。東村さんにしても三宅さんにしても、あの豪胆さが線が生き生きとなる秘訣なのでしょうね。今度何か絵を描く時は参考にしてみます。

 

 

カッターでホワイトを削る

三宅さんの豪胆さはホワイトにも出ていて、消しては行けない線までホワイトで消してしまっていました。消してしまった重要な線はどうするのか?

私ならもう一度上から描き直すことを選択すると思います。でも三宅さんはそうはしませんでした。三宅さんはカッターを持ち出して、先程塗ったホワイトをカッターで削ることで、消した線を「掘り起こす」のです。

 

浦沢「これ。『ホワイト削り出し』。これ平気で消しちゃいけない線を消すじゃない? ほら消しちゃった! 『ああ……』って思ったら、その後カッターで削り出すでしょ?」

三宅「そうそう(笑) 私、ホワイトを上手く使えないから、いつも最後カッターで掘り起こして……(苦笑)」

浦沢「これは『藤田和日郎』以来の荒業ですよね」

 

という会話がありました。この会話中、三宅さんは洋服をパタパタさせて顔に風を送っていました。恥ずかしいと言っていたので、顔が熱くなっていたのでしょう。

名前の挙がっていた藤田和日郎さんは『うしおととら』で有名な漫画家さんですね。藤田さんも東村さんと同じく『漫勉』のシーズン1に出演していました。ペンとホワイトを駆使して描いていて、ホワイトを修正のためだけに使っていませんでしたね……ペンと同じ感覚で使っていたように見え、確かに他の方には見られない荒業でした。

三宅さんは、そもそもはホワイトを使うことが嫌いだったそうです。でもアシスタントさんに「ホワイトもペンの一つですよね」と言われたことでタガが外れたそうで、以来何でもホワイトを使うようになったと仰っていました。

漫画を描いたことのない私は、ペン入れは失敗できない印象がありましたけど、『漫勉』を観ていると、ホワイトの修正は結構使っていて以前持っていた印象が覆された思いがします。プロでもこんなにホワイトを使っているのなら、と漫画家を目指している方、漫画を描いてみたい方には勉強になる一コマになっていたように思います。

 

 

おわりに

三宅さんが豪胆な様子は、原稿を何枚も重ねて描いているところにも現れていました。普通は完成した原稿の上に別の原稿を重ねて描いたりはしないでしょう、というのは漫画を描いたことのない私でもわかります。完成原稿が汚れたり、上においた原稿に入れるペンの筆圧によって、完成原稿に凹みなどが出たらどうしよう、と思いますよね、誰もが。見ていて怖かったです。集中していて他に意識が届いていないのでしょうか。それはそれで凄いことですけれども……。

それと、驚いたことは、設定資料の緻密さです。設定がノートに事細かに書かれていて、隙間がないくらい1ページにびっしりと絵や図や文字が書かれていました。漫画で描くことはない部分であっても設定することによって、物語に厚さや深さのようなものを生み出しているのでしょう。あの緻密さはペン入れや原稿の扱いの豪胆さとは対象的に見え、単に豪胆なだけの人ではないのだなぁと感心しました。

SFファンタジーは萩尾望都(はぎお・もと)さんの「11人いる!」とか、佐藤史生(さとう・しお)さんの「ワン・ゼロ」とかの少女漫画のSF作品の影響を受けていて、その前には鴨川つばめ(かもがわ・つばめ)さんの「マカロニほうれん荘」を読んでいたそうです。女性にしてはリアルタッチだという指摘を受け、浦沢さんの「パイナップルARMY」など青年誌を読み漁っていたからその影響だと言っていました。

どのような漫画を読んできたかが、その人の描く漫画にも少なからず影響を及ぼしている、ということはある意味で当たり前なですけど、繋がっているのだなぁと思えて面白いです。

 

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