Eテレのドキュメンタリー番組『浦沢直樹の漫勉neo』では、2021年6月9日に「安彦良和」さんの回が放送されました。
しかし、私は放送を見逃してしまいまして、再放送を待ち望んでいました。
2021年7月7日に再放送されましたのでそこで初めて視聴しています。
感想を書きます。
目次
浦沢直樹の漫勉neo
テレビ番組『浦沢直樹の漫勉neo』についてです。
普段は立ち入ることができない漫画家たちの仕事場にカメラが密着し、最新の機材を用いて「マンガ誕生」の瞬間をドキュメント。その貴重な映像を元に浦沢直樹が同じ漫画家の視点から切り込んでいきます。
番組の公式webサイトには上記引用部のように書かれています。
放送日時
放送日時について。
毎週水曜日22時00分から22時50分までです。
2020年シーズンは木曜日の同じ時間帯だったと思います。
2021年シーズンは曜日が変わっているみたいですね。
出演者
出演者について。
漫画家の「浦沢直樹」さんがプレゼンターとして出演されています。
言わずもがな『YAWARA!』や『20世紀少年』、『MONSTER』を描いた方ですね。
ナレーションは俳優の「葵わかな」さん。
連続テレビ小説の『わろてんか』に主演なさった方ですね。
あとは、毎回取材する先の漫画家さんたちが出演者になります。
第9回「安彦良和」
『漫勉neo』としての第9回は「安彦良和」さんの放送でした。
『漫勉』時代から数えると9回より回数を重ねていると思われます。
『乾と巽 -サバイカル戦記-』の作画をなさっていました。
安彦良和さん
「安彦良和」さんについて。
こちらは紹介しなくても皆さんご存知ですよね。
安彦さんというと『機動戦士ガンダム』のキャラクターデザインや作画監督を手がけられた方です。
もちろん他にも多くの作品に携わっていらっしゃいます。
しかし私は『機動戦士ガンダム』が初・安彦良和だったこともあり、私の中では「ガンダムの人」の印象が極めて強いです。
それと私にとっては『巨神ゴーグ』の人でもあります。
当時好きなアニメでした。
ただ私の周りに好きな人はほとんどいなかった記憶です。
と言いますか、巨神ゴーグの読み方って「ジャイアントゴーグ」なのですね、今の今まで「きょしん・ゴーグ」だと思いこんでいました。
見逃した
この『漫勉neo』第9回「安彦良和」の放送は、実は2021年6月9日に放送されました。
ところが私はその放送を見逃してしまいまして、いつか再放送があるだろうと待っていたのです。
安彦良和さんの作画風景など、後にとんでもない財産になりそうな放送ですから、多くの方が視聴したでしょう。
また多くの方がもう一度観たいとリクエストをするであろうとも考えられます。
なので近々再放送されるに違いないと踏んでいました。
そして2021年7月7日に再放送があり、私の念願が叶っています。
感想
『漫勉neo』第9回は「安彦良和」さんの放送回を観た感想です。
私には漫画の知識も絵の技術もないですから、ド素人による適当な感想です。
現実にない人
浦沢さんが、安彦さんと会う前に、カメラに向かって語っていました。
「」と。
これ、私には腑に落ちる発言だったのですよ。
幼い頃にテレビに流れていたアニメは劇画調の絵がとても多かったです。
例えば『ガッチャマン』や『ヤッターマン』などに劇画の雰囲気を持ちます。
わたしは『ガッチャマン』などのリアルタイム世代ではありません。
幼い頃にメインに観ていたのはそういった、当時から見ても少し前の時代のアニメーションだったと思います。
ところが『機動戦士ガンダム』を初めて観たとき、これも再放送だったと思いますけど、異質さを覚えました。
異質さはどこから来るものか、当時幼かった私にはよくわからなかったです。
今改めて考えますと、「アムロ・レイ」たち登場人物たちからは、『ガッチャマン』などの劇画タッチを感じなかったのでしょう。
どうしてそう思ったかというと、アムロたちが他にはないカッコイイ絵柄だと、幼いながらに思ったからです。
オシャレで洗練された絵柄だと思ったのでしょうね。
安彦さんの絵に現実感がないことに同意する理由はここにあります。
「鳥山明」さんの絵柄も同じようなことが言えます。
当時、あの絵柄はオシャレに見えました。
今でもオシャレに見えますからね、お二人とも。
絵の巧さに驚く
何より絵の「巧さ」に驚きました。
『漫勉』でプロの漫画家さんの作画風景をたくさん観てきました。
安彦さんの技術はその中でもトップクラスにいらっしゃると感じられます。
素人でも明らかにわかるくらいに巧いですね。
何でしょう、センスが高いことはもちろん、それ以上に技術が骨の髄まで染み込んでいると言えばよいでしょうか。
職人的な技術力の極めて高い人という印象を受けました。
フランス語でいう「メチエ」ですか、それが備わっている方。
眉毛から描く
安彦さんは人物の描き方からして、私にとっては驚きでした。
一般的には、しっかり描く前に人物などの配置を決めて、大きさや向きを決めるといった「アタリ」をつけるものだそうです。
『漫勉』でもしばしば見られる光景ですね、漫画家さんが紙にアタリをつけてから本格的に描き始める様子は。
けれども安彦さんはそういうものをほぼ入れません。
まったく入れなくもなかったですけど、ほぼ入れていませんでした。
いきなり「目」から、もっと言うと「眉毛」から描き始めます。
眉毛は表情が出るものだからとはご本人の弁。
眉毛から目、鼻、前髪、顔の輪郭と描き進めていきます。
すると突然少し離れたところに鉛筆を飛ばして、何を描くかと思ったら端の一部が欠けたお碗と、それを持つ指を描いていました。
しばらくすると、またいきなり少し離れたところに鉛筆を飛ばして、今度は箸を持つ手を描き始めます。
アタリがつけられていないので、観ているこちらはどうしてそこで鉛筆が飛ぶのか、何を描こうとしているのか、わかりません。
しかし少し描き進めていくと、「ああ茶碗か、手か、親指か、爪か、箸か」とわかってくるのです。
途中で絵を止めて見ると、何がどうなっているかわからないでしょうね。
でも描き切ると、お腹を空かせた男性が茶碗のご飯をかっ食らう様子と、誰しもがわかる絶妙なバランスで絵が仕上がっています。
ネームを作らない
もっと驚いたことは、安彦さんは「ネーム」を描かないことです。
普通は本番を描く前に、まずはノートなどに構図や配置などを描きます。
それがネームですよね、確か。
ストーリーを作ったり練ったりするためにも使われるでしょうか。
ネームが終わったらネームを元に、今度は本番用の漫画用原稿用紙、これはケント紙や上質紙が多いと思いますが、そこに鉛筆などで下描きを描き、そしてペン入れをしていきます。
安彦さんはそのネームを描きません。
資料も作らないと仰っていたかと思います。
ではどうやって絵を描いているかと言いますと、白紙の原稿用紙を前にして、頭の中で構想を練っていました。
手をあれこれ動かしたり、逆に身を固めながら。
しばらくするとペンを持ち、まずは紙に定規で線を引いてコマを割り、次に鉛筆で下書きを描き、そしてペン入れをしていました。
正確には「ペン」ではないのですが、それは後述します。
複雑な、囲炉裏があるような日本家屋の屋内を天上からの俯瞰で描く構図も、柱や梁などの簡単な線を入れた後、すぐに腰を抜かしたようにして驚くお婆さんの顔から描いていました。
先ほどご紹介したように、描くのは眉毛からです。
そのコマでは4人ですか、登場人物がいました。
4人もいれば複雑な配置になりそうですけど、それでも安彦さんはコマの中で人物や家具、道具などを配置するためのアタリをつけないのですね。
そういう大まかなアタリをつけないのに、人物も眉毛から描いているのに、描かれた人物たちはなぜか床から浮くなどしていません。
しかもそのコマは1時間でしたっけ、そんな短時間で描いてました。
私が人物4人が部屋にいる様子を俯瞰で描いたら、アタリをつけないと、人物や家具などが床や地面から浮いて描けてしまうことが多くなるはずです。
アタリをつけてもきちんと描けるか怪しいくらいなので。
アタリをつけないことを、確か安彦さんはアニメーターの癖とか習慣とか言っていたでしょうか。
一山でなんぼの世界だからと。
毎週30分放送されるアニメを描くために、1枚1枚にアタリとかつけている時間なんてないのですね。
思うに、安彦さんは描く前、手を動かしたりしている間に、頭の中で絵を描いていたのでしょう。
ご本人は鉛筆で下書きを絵がているときに、行きあたりばったり的なことを仰っていました。
しかし私たちからすると、私たちの想像以上に、ご本人は頭の中で細かいところまで描いてしまっているのだと思います。
筆で描く
そしてもう一つ、安彦さんは絵をペンで描いていませんでした。
「筆」で描いていました。
安彦さんが漫画を筆で描くことになったきっかけは、「松本零士」さんにかけられた言葉だそうです。
「筆っていうのもありだよ」
そう言われてから漫画作品を描き始めたみたいです。
ペンは合わなかったみたいですね。
使っている筆は「削用筆」と仰っていましたか。
中国製の1本100円の品を。
細かいところも面相筆などは使わずに、削用筆で描いていました。
削用筆はコシがあるから使っているそうですね。
細かいところはその穂先で描くのだとか。
1回30ページの原稿を描くにつき、2〜3本使うとのことでした。
筆で描く漫画家さんは『漫勉』でこれまでにも何人かいらっしゃいました。
ただ安彦さんは、『アリオン』で漫画家デビューをしたときから筆で描いていて、機械や建造物など無機物をも筆で描いているそうです。
背景ももちろんそうですね。
ということは『機動戦士ガンダム THE ORIGIN』でのスペースコロニーやモビルスーツも、ということですよね。
私はTHE ORIGINの漫画を全てではありませんが持っていますけど、いや、あの絵が筆で描かれているとはまったく思いませんでした。
言われてみると確かに、特に最序盤の「ザク」の絵柄、例えばモノアイが収まる枠などに独特な丸みがあるなと感じた記憶があります。
丸ペンやGペンの線では出せないニュアンス。
あれは筆で描いているからこそだったのでしょう。
THE ORIGINでは一部、ミリペンを試したと仰っていたかと思います。
ですがやはりしっくりしなかったみたいで、筆に戻されたそうです。
絵を描く感じがしなかったとか何とか。
目や鼻の位置を定めるためのアタリをつけることも、製図ペンで人工物を描くことも、どちらも「作業」感があって、絵を描くこととは線を引きたいのでしょうね。
言い換えると、安彦さんにとって漫画というか絵描きは好きだからやっていることであって、それがベースにあるから仕事にできているのかもしれません。
絵を描くことが完全に作業になってしまうと、それはもはや自分の本来やりたいことから離れてしまうのかも。
ホワイトの使わない
安彦さんは番組中に「ホワイトはほとんどやらない」と発言されていました。
ホワイトを使わないということは、修正もほとんどしないということですよね。
番組中に雪の降るシーンがありました。
それは黒ベタを残して雪を表現してました。
はぁ〜、とため息をつくばかりの私。
ホワイトといいますと「藤田和日郎」さんを思い出します。
藤田さんは『漫勉』の初期に出演されていて、印象に残っています。
彼は大量にホワイトを使っていました。
ホワイトで線を描いているくらいに。
そういう意味で安彦さんとは対局にいらっしゃる方でしょう。
そう言えば、安彦さんはホワイトだけでなく、下描き中も消しゴムを使うシーンがほとんどなかった気がします。
そもそも「線を探さない」ですから、線が少ないです。
そりゃ短時間で描けるわなと思います。
まさに「神業」でした。
おわりに
ということで、Eテレ『浦沢直樹の漫勉neo』の「安彦良和」さん回の放送を観た感想を書いた記事でした。
安彦さんの次に紹介される漫画家さんはプレッシャーだろうなぁと、要らぬ心配をしてしまいます。