ディスディスブログ

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放浪俳人「井上井月」を雑誌『ダ・ヴィンチ』2015年7月号の又吉直樹さん特集で知りました

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本の雑誌『ダ・ヴィンチ』の2015年7月号は、お笑いコンビ「ピース」の又吉直樹さんの特集でした。

私はお笑いがあまり好きではないのですが、又吉さんの語りや雰囲気は好きです。オシャレですし。

『ダ・ヴィンチ』も毎号のように読んでいます……というか歌人・穂村弘さんの「短歌ください」のコーナーが好きで、そこをメインに読んでいます。今月号にも良いなぁと思える歌が一つありました。自分と世界との間に「あ」を挟む、という歌です。

 

短歌ください 穂村弘 応募コーナー | ダ・ヴィンチニュース

 

以前からダ・ヴィンチと又吉さんの関係は深く、これまでにも何度も登場していると思いますが、今月号は彼の著作『火花』が売れ、第28回三島由紀夫賞候補に挙げられたことから特集を組まれています。同賞の受賞作、上田岳弘さんの『私の恋人』との決選投票で惜しくも2対3とわずか一票差で敗れ、受賞を逃しています。

ということで、好きな芸人さん又吉さんが好きな雑誌ダ・ヴィンチで特集されていると知り、興味深く拝読しました。

 

今月号のダ・ヴィンチで個人的に大きな発見となったのは、『芸人と俳人』刊行記念の、俳人・文筆家である堀本裕樹さんとの対談です。対談では堀本さんが放浪俳人、井上井月(いのうえ・せいげつ)を持ち出していました。私は井月のことを知らなかったのですが、今回初めて井月の句に触れ衝撃を受けました。良い句を詠むんですね。

 

「落栗の座を定めるや窪溜り」
「何処やらに鶴の声きく霞かな」

 

このニつ句がとても好きです。

落栗の句は井月が太田久保(現在の長野県伊那市美篶辺りだそう)で詠んだものだとか。井月は安政5年頃にふらっと伊那谷を訪れ、そのまま伊那谷を拠点にして各地を放浪するようになった人だそう。井月は松尾芭蕉が好きだったらしいです。

落ち栗が井月自身で、自分がたどり着いた太田久保の地と溜りとで掛けている、窪溜りに収まる感じが何とも良いですね。落ち栗は自らの意思で窪溜まりに落ち着いた訳ではないでしょうし、あるいは誰か、子どもが入れたのかも知れない。それを自分の人生にも当てはめているようで、味わいのある句です。

鶴の声の句は、絶筆だそうですが、辞世の句ではないそうです。鶴は「たづ」と読み、「堂津」と書かれている書籍もあるみたいです。こちらは寂しくなる句で、圧倒的な孤独を感じます。朝、辺りはすっかり白く霞んでいて、音すら鶴の声しか聞こえてこない、という。

 

井月は身なりを全く気にしない人で、汚らしい格好をし、体に虱(しらみ)が湧いていることから「乞食井月」「虱井月(しらみ・せいげつ)」などと呼ばれていました。子どもからは石を投げられていたこともあったとか。虱井月という呼び名から想像できないほど、俳句から清潔さを感じさせます。越後、長岡藩の生まれだそうですが、武家の出なのか裕福な家の出なのか、詳しい出自は不明とのこと。そしてお酒が大好きでいつも飲んでいたそう、機嫌の良い時の口癖は「千両、千両」。

芥川龍之介は井月のことを気に入っており、句集の跋文(ばつぶん、後書きのこと)を書いたことがあるそうです。また種田山頭火やつげ義春も井月の句を、生き方かもしれませんが、気に入っていたようです。山頭火は井月の墓参りもしているそうですし、つげ義春は『無能の人』の「蒸発」という話に井月を描いています。

 

 

山頭火というと、私は山頭火が湯治していた場所だと聞いて、大分の湯平温泉へ行ったことがあります。昭和感、いえもっと古い雰囲気を感じさせる温泉街で、かなり良い、鄙びた雰囲気のする温泉街でした。決して華やかではないですけど。当時付き合っていた彼女と一緒に、2月に行きました。雪が積もっていて凄く寒かったです。人通りもあまりなく街を独り占め、二人占めしたかのような感覚でした。鯉料理が美味しかったです。

井月のことを知らなかったのでとても新鮮な驚きでした。このような放浪俳人がいたのか、という。句集など是非読んでみたいです。

 

ダ・ヴィンチ 2015年7月号 05987‐07

ダ・ヴィンチ 2015年7月号 05987‐07

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