「井上陽水」さんのアルバム『スニーカーダンサー』を購入しました。
CDジャケットの紹介や曲を聴いた感想を書いています。
目次
井上陽水にハマる
シンガーソングライターの「井上陽水(いのうえ・ようすい)」さんにハマっています。
井上陽水さんは説明不要、日本を代表するシンガーソングライターで、日本の音楽業界における重要人物の一人です。
私はこれまで、音楽番組などで観たり聴いたり、あるいはベスト盤を借りて聴いたりすることしかしていませんでした。
名前も知っているし、曲も有名なシングルであればたいていサビくらいは知っているけれど、ベスト盤ではないアルバムをきちんと聴いたことがなかったです。
『ザ・カセットテープ・ミュージック』
私が陽水さんにハマったきっかけは、tvk(テレビ神奈川)で再放送されているBSトゥエルビの音楽番組『ザ・カセットテープ・ミュージック』です。
『ザ・カセットテープ・ミュージック』の第4回「深遠なる井上陽水の名曲特集」の放送を観て以来、初期のアルバムを一度聴いてみたいと思うようになりました。
『SONGS』
また、NHKで放送されている音楽番組『SONGS』でも陽水さんの特集が組まれていました。
2019年4月6日と2019年4月13日の2回に分けて。
この放送を観たことも想いをより強くした要因です。
こうして私は陽水さんのCD購入に踏み切りました。
オリジナルアルバムの『断絶』と『陽水Ⅱセンチメンタル』、『氷の世界』、『Negative』、『ハンサムボーイ』、『UNDER THE SUN』、『永遠のシュール』、『カシス』、『九段』、『あやしい夜をまって』、『二色の独楽』、『LOVE COMPLEX』、『魔力』、『white』の記事をブログに書きました。
セルフカバーアルバムの『9.5カラット』、シングル『コーヒー・ルンバ』。
安全地帯とのコラボレートライブアルバム『スターダスト・ランデヴー 井上陽水・安全地帯 LIVE AT 神宮』、奥田民生さんとのコラボレートアルバム『ショッピング』も記事にしています。
あわせてご覧になってください。
井上陽水『スニーカーダンサー』
今回紹介するCDは『スニーカーダンサー』です。
画像がCDジャケットの表と裏。
ジャケットからはスニーカーダンサー要素が一切ないように見えます。
先から煙がたゆたうタバコを口に咥える陽水さん。
中身、CDとブックレットの裏表紙。
本品は『Amazon』で中古CDを購入しています。
価格は1,200円ほどでした。
説明
簡単な説明です。
調べると、本作『スニーカーダンサー』は井上陽水名義の7作目のオリジナルアルバムとのこと。
1979年9月21日リリース。
1970年代最後のアルバムだったでしょうか。
ジャンルはWikipediaによると「フォーク」とあります。
しかし聴いた印象では「POPS」や「ニューミュージック」、「AOR (Adult-oriented Rock) 」の方が適当に感じます。
曲によってはジャズ感もあり、フュージョンと呼んで良い気もします。
作詞と作曲は基本、陽水さんです。
本作は作曲が陽水さんではない曲がいくつかありました。
例えば、1曲目は「高中正義」さん、3曲目は「小室等」さん、9曲目は「星勝」さんです。
1作品のうち作曲を3曲も他人が、というのは珍しい。
編曲は高中さんと星さんで5曲ずつ担当しています。
高中さんが陽水作品のアレンジを担当したのは本作が初でしょうか。
曲リスト
7thアルバム『スニーカーダンサー』の曲リストです。
- スニーカーダンサー
- Mellow touch
- 事件
- 今夜
- ジェニー My love
- なぜか上海
- フェミニスト
- 娘がねじれる時
- 海へ来なさい
- 勝者としてのペガサス
曲のリストは上記のようになっています。
全10曲、トータル42分。
シングル曲は「なぜか上海」のみ。
聴いた感想
井上陽水さんの7thアルバム『スニーカーダンサー』を聴いた感想です。
これから書くことは、あくまでも私の感想です。
絶対的な評価ではないことをご了承ください。
見当違いなことを書いていたり、認識に誤りがあったりしたら申し訳ありません。
感想は「とても良い」です。
実は最初聴いたときはそれほどかなと思いました。
ところが何度か聴いているうちに、「これはなかなか良いアルバムではないか」と感じられるようになりました。
作風の転換点
本作は作風の転換点にあるように感じられました。
前作『white』からその気配はありましたが、本作から明確に変わってきています。
退廃・デカダンス期
何に変わったかというと、曲調で言えば退廃・デカダンス期への転換ですね。
転換というか移行というか。
『氷の世界』や『二色の独楽』では、『断絶』と『陽水Ⅱセンチメンタル』のフォーク路線からニューミュージックへの転換があったように思います。
と言っても、陽水さんご本人にはフォークとかニューミュージックとかのジャンル分けや区切りはなかったのかもしれないです。
と言うのは『氷の世界』以降もフォークの気配は常に感じられたから。
アレンジがニューミュージックっぽさがあったけれど、詞やメロディからはフォーク感が漂っていました。
あくまでも私にとっては、です。
それが本作では、しがみつくように残ってきたフォーク感がかなり無くなってきています。
都会的な音作り、それと並行してある種の「軽さ」や「乾き」が音に出てきた感。
意思が見えなくなる
詞の変化も強まっています。
前々作『招待状のないショー』までは、詞の内容は私小説的なものが多かったです。
その頃に陽水さん自身の身の回りの起きた出来事や、そのときどきの思いの丈を、比較的ストレートに詞に乗せてきていました。
ところが特に今作から、一般的にイメージする陽水さんの詞のように、捉えどころのない、何を言っているのかわからない、超然とした詞に変わっています。
前兆は前作『white』からありました。
『white』から詞の抽象度が増してきていて、しかしそれでもまだ底の部分には陽水さんの明確な意思が垣間見えていたと思います。
次作である本作は前作で垣間見えていた意思すらも、見えてこなくなっています。
これは陽水さんが意識的に消したものと私は思っています。
陽水節
陽水さんご自身の声も変わってきました。
陽水節とも呼べるような、彼独特の歌い方が出てきました。
初期に見られる、ストレートでクリアな声の出し方ではなくなりつつあります。
独特な歌い方はどのようなものか。
それは『リバーサイドホテル』や『いっそセレナーデ』辺りを歌っている陽水さんを想像してもらえるとわかりやすいかもしれません。
あの陽水さんの独特な「小節(こぶし)」みたいなものが、少しずつ聴かれるようになっていると感じました。
「今夜」
4曲目の「今夜」は、個人的には本作で最も面白さを感じている曲です。
都会的な退廃・デカダンス期に向かう、その過渡期のような、前後の作風が入り交じっているかのような曲に感じられるからです。
本曲のアレンジは星勝さん。
星さんなだけあって、根底はフォーク色が強いです。
出だしからアコースティックギターが奏でられ、Aメロ、Bメロとこれはフォークかなと思わせる曲調。
ところがサビになると、一気にフォークっぽさが抜け、アーバンな雰囲気が出てきます。
サビの終盤には、2番に入るための準備なのでしょうか、再びアコギとともにフォーク感がじりじり……と近寄ってきて、2番へという流れがあります。
このフォークと都会的なAORの、どっちへ行こうか迷っている感。
これが陽水さんというよりも星勝さんの当時の迷いみたいなものを見て取れて、個人的には興味深く聴くことができました。
迷いの元はおそらく、先ほど書いたように陽水さんの詞と曲(メロディ)の変化が起こったことでしょう。
陽水さんの変化に星勝さんが戸惑っているのではないか、と私は思います。
少し意地の悪い聴き方かもしれませんけど。
「なぜか上海」
6曲目「なぜか上海」も、この当時の陽水さんをよく表していると感じられます。
いや、他の曲でも全体的に表れているのですが、より顕著に表れているという意味で。
本曲は6曲目ですけど、レコードではB面の1曲目です。
先述したように、本作唯一のシングル曲でもあります。
本曲は詞が面白いです。
特にサビの部分。
歌として声に出したときだけではなくて、歌詞の段階から、意図的に、流暢というか自然な日本語にしていないのですね。
まるで日本語が不自由な中国人が日本人に誘いをかけているかのように。
曲名が「なぜか上海」なので中国人と書きましたが、何人でも良いです。
この、敢えての不自然な日本語の歌詞にした理由は何でしょう。
異国感を出したかったこともあるでしょうか。
それ以上に私は、陽水さんが詞よりメロディを優先させたかったからかな、と感じました。
大きなメロディ展開に負けない詞・ふさわしい詞を乗せたいということより、メロディを奏でる口や喉に、気持ちよく音を出させるためにあの詞をチョイスしたのではなかろうか、と思えたのです。
文末が歌としては不自然な「ですます調」、「○○さん」という人の呼び方。
言葉遣いは丁寧ではあるのですが、人との距離感や緊張感を感じさせて、怪しさたっぷりです。
メロディは本作の中では歌謡曲感が漂うものになっています。
イントロのギターの格好良さ、ストリングスを入れるアレンジを含めて、メロディが非常に洗練されています。
アレンジにジャズ感があったり。
陽水さんの音楽を語る上で、名前がもっと出てもいいのにと感じさせる良曲です。
「娘がねじれる時」
8曲目の「娘がねじれる時」。
シングル「なぜか上海」のB面曲だそう。
曲タイトルからしてとんでもないですね。
娘がねじれる時、なんて言葉を思い浮かびますか?
発想力と表現力がすごい。
詞はある娘が非行に走った様子を描いているのでしょう。
娘と彼女の両親の人生まで狂っていく、家庭崩壊の様子が抽象的に描かれています。
抽象的に描くからこそ、聞き手としての私たちが様々な想像をします。
ある人はドラマや映画を想像し、ある人はご近所や親戚・友人の家庭に当てはめて、ある人は自らに当てはめてしまう。
聴いていて怖くなる曲です。
高中正義さんのギターがカッコイイ
5曲目「ジェニー My love」も6曲目「なぜか上海」も8曲目「娘がねじれる時」も、高中正義さんが編曲を担当しています。
ギターも弾いていらっしゃるみたいで、高中さんのギターがえらいカッコイイのですよね。
ジャズ・フュージョン感が出ていて。
おわりに
ということで、井上陽水さんにハマっているので、Amazonで『スニーカーダンサー』を購入して、聴いた感想を書いた記事でした。
本作は一般的にはあまり語られることのないアルバムかも知れません。
私はとても楽しめました。
聴く前から、第二次陽水ブームまでの過渡期の陽水さんは面白いだろうと予想していましたが、予想を上回る面白さです。
アルバムを聴くだけでなく、当時の陽水さんや社会の背景などを踏まえて聴くと面白さが増してくると思います。