2017年3月2日木曜日22:00からEテレのドキュメンタリー番組『浦沢直樹の漫勉』が放送されています。
2017年3月16日の放送は「シーズン4」の第3回「山本直樹(やまもと・なおき)」さんでした。番組はパイロット版の「シーズン0」があったため、シーズン4は実質「シーズン5」です。
目次
漫勉とは?
日本を代表する漫画家の制作現場にNHKのカメラが入り、漫画家の作業の様子を邪魔にならないよう定点カメラで撮影して、記録した映像を取材したご本人と漫画家「浦沢直樹(うらさわ・なおき)」さんが2人で観ながら、どのような手法で、どのような道具を用いていて、どのようなことを考えながら漫画を描いているのか……といったことを話す番組です。
言わずもがな、浦沢直樹さんは「YAWARA!」「20世紀少年」「MONSTER」などを描いた漫画家さんです。
『漫勉』シーズン4第3回は「山本直樹」さん
3月16日(木)NHK22時NHK Eテレ「浦沢直樹の漫勉」は山本直樹さん登場です!数々の問題作を世に送り出す山本さん。過激な描写とはうらはらな冷めた視線。それはフルデジタルから繰り出されていました。長い付き合いの山本さんと初めてちゃんと真面目に漫画の話をしました。面白いです! pic.twitter.com/XYWe6QFYRd
— 浦沢直樹_スタジオ・ナッツ公式情報 (@urasawa_naoki) 2017年3月14日
『漫勉』シーズン4の第3回は「山本直樹(やまもと・なおき)」さんです。
青年漫画の第一人者「山本直樹」が登場。84年デビュー。91年発表「BLUE」では、その過激な描写が論争となるが、その後も作風は変わらず、95年発表「ありがとう」では「家族とは何か」を問いかけたテーマ性も高く評価される。2006年、連合赤軍事件を題材にした「レッド」の連載開始。10年には文化庁メディア芸術祭優秀賞を受賞。今回、20年来フルデジタルで描いているという執筆の現場に密着した。
このような番組説明です。
山本 直樹(やまもと なおき、1960年2月1日[2] - )は、日本の漫画家(大学時代は同人漫画家活動も実施)。北海道松前郡福島町出身[2]。北海道函館中部高等学校、早稲田大学教育学部国語国文学科[2]卒業。劇画村塾3期生。水瓶座、血液型AB型。主に青年漫画を執筆。
山本直樹さんのWikipediaにはこのように書かれています。早稲田大学卒なんですね。有名大学を出ている漫画家さんは多いのでしょうか。
山本さんのTwitterアカウントもありました。Twitter活動も活発です。
私は山本さんのお名前を今回初めて知りました。毎回同じことを書いていますね……漫画のことも漫画家さんのことも知らないです。以前から読むのは少年誌ばかりで、成人向けの漫画や青年誌はあまり読まなかったので、少年誌も明るくはないですが、そちら方面になると特に知らないですね。
ただ山本さんの絵柄には記憶があります。どこかで作品を読んだのか、ネットなどで表紙など一部だけ見かけたのか、というところと思います。
山本直樹さんはフルデジタルで執筆
山本直樹さんは、『漫勉』の番組史上初でしょうか、フルデジタルで漫画を描いていらっしゃいます。アシスタントを置かず、お一人で描いています。
『漫勉』では以前「浅野いにお(あさの・いにお)」さんの、デジタルを駆使した制作風景を紹介していましたが、フルデジタルではなかったはずです。
今回、個人的に非常に驚いたのが、山本さんが使っているペイントソフトです。PCは「Mac(マック)」で、「Aldus SuperPaint」というペイントソフトを使っていたようです。1993年でバージョンアップが止まっているソフトを今でもそのまま使っていらっしゃるようです。24年前……。
技術的な特徴としては、かなり早くから漫画にMacintoshによる作画(CG)を取り入れていることが挙げられる[12]。1993年ごろから漫画を描くのにパソコンを使い始め[13]、「Aldus SuperPaint」という現在では発売中止になった(開発元のAldusがAdobeに買収されたため)ソフトを現在も使っている。
Wikipediaにも作画の手法について言及されていました。
また、番組内で山本さんが浦沢さんに使わせたのは「Photoshop 4.0」でした。こちらは1996年製ですか。「CS4 (Creative Suite) 」でもない、もっと昔のものです。
もはや四半世紀に達しようとする古いデジタルツールを今なお使い続けている理由は、山本さんが仰るには「白黒2値で描くテクノロジーってこの辺で完成しちゃっていて、後はフルカラーとか3Dとかそっちの方で……」ということでした。
確かに、漫画は基本、モノクロで描かれますから、色がどうとか動かす技術がどうとかは必要ないですね。
壊れたらまた買えばいいんです。中古を。実際去年の暮れに9年ぶりにぶっ壊れたので、画面に映ってた機材群は買ったばかりの中古。 https://t.co/n6jSP06uGp
— 山本直樹 (@tsugeju) 2017年3月16日
そういうことです。最新のマックだと表示もしてくれない。 https://t.co/t8tmesEszg
— 山本直樹 (@tsugeju) 2017年3月16日
PCが壊れてもまた中古を買えば良い、描いたデータの保存はSuperPaintで保存した後にPhotoshopで保存形式を変換してから入稿している、ということみたいです。SuperPaintとPhotoshop4.0はセットなのですね。
そこまでしてSuperPaintなどにこだわる理由もない気もしますけど、使い慣れたものを使いたいのでしょうか。今のPhotoshopなどペイントツールについて私は知らないですけど、ペンタッチを出さないように設定すること自体はできますよね?
ペンタブレットは、いわゆる「液タブ(液晶タブレット)」ではなく「板タブ(板状タブレット?)」でした。メーカーは「Wacom(ワコム)」でしょうか。漫画家やイラストレーターの方は液タブを使っている印象が強いです。こちらも使い慣れ手に馴染んだ機材を、ということかもしれません。
ペン入れは「福笑い」と「引き算」
山本直樹さんはフルデジタルです。ネームは文字を打ち込んでいて、下描き時点からペイントツールで絵を描いていました。
下描き、ご本人は「アタリ」と表現していました、それに網かけ処理をして下のレイヤーに設定して、上のレイヤーにペン入れをしていました。
下描きレイヤーを消したり点けたり、ペン入れのレイヤーも反転してバランスが狂っていないかなどを確認しつつ。
デジタルソフトで描くことの利点はやり直しがしやすいことです。ペン入れをした後にバランスがおかしいと感じても、デジタルであれば、範囲を指定・選択して拡大・縮小、回転、移動などが自在ですから、幾らでも修正が利きます。
山本さんもそのように目や眉、鼻、口といった顔パーツだけでなく頭そのものも移動させたりして、まるで「福笑い」のように描いていました。こればかりはアナログではできない芸当ですね。
また、消しゴムツールで線をあえて途切れさせているようです。浦沢さん曰く「絵がふぅっと軽くなる」効果があるそうです。確かに見ていると、線の力強さが減って空気を含んだような軽さが出ていました。
「デジタルで描くことの良いところは、いくらでも消せるんですよね。『引き算』ができる。引き算を失敗したら、またやり直せば良い。消すのが楽しいですね」
と、山本さんご本人も仰っていました。ただそれも限度があって、デジタルだといくらでも出来てしまうから徐々に限度を学習していくようです。最初の頃は手を加えすぎて画面が真っ黒になっていたと。
カケアミや、森の中を描くときの木々のシルエット、人物のシルエット、星空など、以前描いた絵のデータを保存しておいて、トーンのように貼っていくこともしていました。それも拡大・縮小、回転などをさせて、自然に見えるよう一部を消去したり加筆したりしながらコマにはめ込んでいました。
ベタももちろんソフトで行うので、こういう作業もデジタルで出来てしまうから、おそらく現在はアシスタントさんを雇わないのでしょう。
その他
山本さんはソフトの「ペンタッチ」を使わないで「均一な線」で描いています。Photoshop4.0ではペンタッチを入れることもできるみたいですけど、それをするくらいならアナログで描くと仰っていましたね。
デジタルなら細さを1ドットに設定して「細くて固い線」を描けるから、デジタルを使っているところもあるみたいでした。その「細くて固い線」の源泉になっているのは少女漫画だということです。「清原なつの(きよはら・なつの)」さんの影響は特に強いようで、女の子の描き方などは真似したと。
それと、「線を抜く」ことの大切さも今回知ることができたのは個人的には収穫でした。肩に手をかけたその触れている線を抜くこと、舌と舌が触れている線を抜くことで「肉」っていう感じがする、ということだそうです。線を抜く(消す)ことで一体感を出して、身体だけなく心の距離までも縮まっている印象は確かにありました。なるほど、と思った瞬間です。
おわりに
フルデジタルと言っても山本さんの制作風景はアナログな印象を持ちました。良い意味でキッチリしていない。
コマにペン入れを始めたとき、例えば「分校の人たち」の女の子の顔の輪郭から描いたときや帽子を描いたとき、その線一本を見ると(払いなどペンタッチがない均一な線ですから)まるで私のような素人がマウスで引いたときのような素人丸出しな線に見えるのですが、出来上がりを見るとプロの描いた漫画になっていました。
当たり前と言えばそうなのですが、これがもの凄く奇妙でした。完成の絵を見ても、最初のあの線から生まれたものとは到底思えないのです。あの線からこの完成絵が想像できないのです。
山本さんは下描きもデジタルで描いているので、他の作家さんのように原稿に下描きがはっきり描かれているものではないから、余計に線が奇妙に感じられたのでしょう。
でも仕上がりを見ると、やはりプロで活躍されている方は違うなと思わせます。大変興味深い制作風景でした。再放送は日曜日の深夜にあると思いますので、見逃した方はぜひそちらをご覧になってください。