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伊藤潤二さんの「恐怖の重層」の発想力が興味深かったです。ホラー絵のヒントは「遅筆」にあり? - 『浦沢直樹の漫勉』シーズン4第2回

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2017年3月2日木曜日22:00からEテレのドキュメンタリー番組『浦沢直樹の漫勉』が放送されています。

2017年3月9日の放送は「シーズン4」の第2回「伊藤潤二(いとう・じゅんじ)」さんでした。番組はパイロット版の「シーズン0」があったため、シーズン4は実質「シーズン5」です。

 

目次

 

 

漫勉とは?

www.nhk.or.jp

 

日本を代表する漫画家の制作現場にNHKのカメラが入り、漫画家さんの作業の様子を邪魔にならないように定点カメラで撮影して、記録した映像を取材したご本人と漫画家「浦沢直樹(うらさわ・なおき)」さんと2人で観ながら、どのような手法で、どのような道具を用いていて、どのようなことを考えながら漫画を描いているのか……といったことを話す番組です。

私たち視聴者が漫画や漫画家のことを勉強するだけでなく、「漫画家・浦沢直樹」が漫画を勉強する番組にもなっているようです。

言わずもがな、浦沢直樹さんは「YAWARA!」「20世紀少年」「MONSTER」などを描いた漫画家さんです。

 

 

『漫勉』シーズン4第2回は「伊藤潤二」さん

『漫勉』シーズン4の第2回は「伊藤潤二(いとう・じゅんじ)」さんです。番組初のホラー。

 

伊藤 潤二(いとう じゅんじ、1963年[1]7月31日 - )は、日本の漫画家。岐阜県生まれ[1]、千葉県在住[2]。代表作は『富江』シリーズ、『うずまき』、『首吊り気球』、『ミミの怪談』など。映像化された作品も多い。
(略)
その後しばらくは、歯科技工士と並行して、漫画家として活動していたが[3]、1990年に歯科技工士を退職し、マンガに専念[1]。

伊藤潤二 - Wikipedia

伊藤潤二さんのWikipediaにはこのように書かれています。

 

私は伊藤さんのお名前を今回初めて知りました。しかし、「富江(とみえ)」の名前は知っていましたし、絵柄も見た覚えがあります。雑誌や単行本の表紙を本屋かコンビニか古本屋で観たのでしょうけれども、表紙だけでも怖いですね……。

私はホラーがとても苦手で観られません。漫画も映像も無理。伊藤さんは怖がりだけどホラー漫画に取り憑かれたようです。怖がりだから取り憑かれた的なことを仰っていましたが、私は怖がりですけど一切見たくないです。私にとっては怖がりだからこそ見ないのが当たり前です。

また、私にとってホラー漫画というと「楳図かずお(うめず・かずお)」さんが真っ先に思い浮かびます。伊藤さんは楳図さんの影響を色濃く受けているようなことを仰っていました。私は楳図さんの作品はおろか絵柄も苦手で、「まことちゃん」すらまともに見られないくらいです。体が受け付けないですね……。

それはさておき、今回の『漫勉』の取材では伊藤さんは「恐怖の重層」という作品を描いていました。

この「恐怖の重層」はもちろんホラー漫画です。内容は、遺跡から人骨を発掘した教授、呪いが彼の娘にかかってしまいます。その呪いは、身体の表面が1枚ずつ積み重なり、年輪のような構造になってしまう、というものです。交通事故でその事実がわかり、狂気にかられた母は、積み重なった娘の皮を剥ぎ取ろうとします……怖い。

番組の取材では、二十歳の娘が皮膚を剥がされ、2歳のときの姿になったときのコマを中心に展開されていました。

 

 

伊藤潤二さんの発想力が一番の驚き

今回、個人的に最も衝撃を受けたシーンは特になかったです。というのも漫画の技法よりも伊藤さんのネタの発想力に対して最も衝撃を受けたので、ペン入れの執筆そのものはそれほど驚くシーンはありませんでした。

いえ、鏡で反射させて原稿を左右反転させるとか、ペンの持ち方が変わっているとか、練り消しゴムを指先に貼り付けながら下描きをするとか、ペンやデジタル処理時のマウスなど道具を自作しているとか、ペン入れなどにも伊藤さん独自の手法があり色々興味深いことはありました。ありましたが、氏の発想力に勝る衝撃は個人的には感じられなかったです。

「恐怖の重層」の木の年輪のように身体の表面が積み重なるなんて、どう思ったら発想できるのか……口の中を描いているシーンも映像にありまして、歯が口腔の奥へ向かって列を成している絵を描いているのですが……確かに、年輪のように積み重なれば、口の中も積み重なっているのでしょうけど……。

伊藤さんの発想力の源を知るためには、おそらくネーム時の映像を撮ることが最も面白い映像になるかと思いますけど、番組にネームの映像はありませんでした。

ネーム作成時の様子を見せるなんてことは、『漫勉』でも浦沢さんご本人の回くらいしか放送されなかったと思いますので、他の漫画家さんでは無理な話でしょう。漫画家にとっての聖域中の聖域でしょうから。

 

 

伊藤潤二さんは漫勉始まって以来の遅筆

ペン入れの様子に限定して、個人的に最も興味があったのはペン入れのスピードです。伊藤さんは『漫勉』の番組始まって以来の「遅筆」でした。

 

浦沢「伊藤潤二さんの漫画を読むと、こういう感じが欲しいんだよ、って思うんですよ。僕が描くと怖くない。伊藤さんが描くと怖い。それは何だろうなと思って……」

「それで、今回、このVTRを見せていただいて、異様にペンが遅いんですよ」

伊藤「ハハハ……遅いです。ハハハ……ハイ」

浦沢「この『漫勉』っていう番組結構ね、速い人が多いんですよ」

伊藤「ハハハ……そうですね、ハイ」

浦沢「『漫勉』史上『最遅』なんですよ」

伊藤「ハハハ……そうだと思います。高橋ツトム先生がご自分の(映像を)見て、『速え〜』とか言っていたんで、自分も速いのかなと思っていたら遅いですね(笑)」

浦沢「おっそいな〜って(笑)」「そこでハッとわかったんですよ。まずホラーを作るにはペンスピードだと」

「一筆一筆に、もうそこの段階でジワジワしていないと駄目なんだ」 「ちょっとずつちょっとずつ入れていくじゃないですか。ちょいちょいって」「『ちょっと気づいたわ』って」

(略)

浦沢「何か細かなディテールが入っている感じがする」

伊藤「『ああでもないこうでもない』と考えながらやっているので、余計遅くなっていますね」

「描いてみて、その形ができあがってきて、『あ、いいな』という、段々その積み重ねで……」

浦沢「不規則なものだけどもちゃんとした狙いがある。ただの不規則じゃないんですよ。格好良くないといけないんです。出てくるものが」

「『グッとくる線』の集合体かどうか、というのが第一」「それがずっと高まっているから絵として完成していく」

 

……という会話でした。

伊藤潤二漫画をホラー足らしめている要因は「遅筆」にこそあるかもしれない。それが本当なのかは私にはわからないですけど、浦沢さんはそのように感じたようです。

でも確かに顔などに影を入れる際の短い線が、画の怖さを増しているようにも感じられます。

 

 

伊藤潤二さんは「余白恐怖症」?

私は今回の放送を観ていて、伊藤さんのホラーをホラー足らしめている要因は他にもあると感じていました。そのヒントもお二人の会話の中にありました。

 

浦沢「これは本当に積み重ねが面白いという絵だからね」

伊藤「私の場合、何か、白いところがあると埋めちゃいます。怖くて。『余白恐怖症』というか」

「とにかく画面を描き込むことによって、暗くしたいなっていうのがあるんですね」

浦沢「『描き込む』ことによって暗くする。ベタ(黒塗り)ではなくね。思いましたよ」

「最初(富江)の頃、ベタで黒くしているところがあったんですよ。デビューの頃」「でも、今やあんまりベタ使っていないんですよ」

伊藤「そうなんですよね」

浦沢「もう描き込みなんですよ。でも、それだけ埋め尽くしているのに、見づらくないんだよな」

伊藤「そうですね。その辺は考えながらやっていますね。あまり雑然としないように」

 

……という会話でした。会話はもう少し続いていて、キャラクターが勝っているから描き込んでいても雑然とはなっていない、という浦沢さんの言葉が入ります。

このシーンで私が気がついたことは、「暗いと怖い」ということです。暗闇を怖いと思う人間の心理が働いているから怖い、というごく当たり前なことですが、そういうことを感じました。

「恐怖の重層」の、娘の2歳のときの絵なんて、娘は口を開いているのに、口の奥が見えない、歯も舌も見えないです。ベタで。他は描き込まれているのに口は真っ黒、そこに強烈な闇のようなものを感じて怖い画になっています。

口の中に何があるのか、何かいるのか……。

口腔を黒く塗ること自体はホラー漫画でなくてもよく見られます。しかし、その場合でも歯や舌は描かれていて、白い部分も描かれているはずです。でも、この娘は口を開いているのに黒で潰されているところが、私にはもの凄く怖いです。

 

 

おわりに

とても興味深く拝見しましたが、それでも読んでみたいとは思えませんでした。

「恐怖の重層」については結末を知りたいとは思いますが、それでも読みたくはないかもしれません。どなたかがネタバレを教えてくれればそれで良いです。

でも『漫勉』のおかげで、普通に生活していたら絶対に出会わなかったであろう漫画に出会えましたし、観たことで世界(意識)が広がった感覚を得られたので、そういう意味で非常に興味深い回でした。

 

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